はじめに(編集部・田尻より)
「フリーランス」という働き方に、強い意志や華やかな独立をイメージする人は多いかもしれません。しかし、今回お話を伺った田中さん(仮名)のフリーランスキャリアは、かなり意外な始まり方でした。キャリアアップを渇望し、がむしゃらに走り続けた20代。そして、予期せぬ形で足を踏み入れたフリーランスの世界。その選択が、結果としてどのように自己実現へと繋がっていったのかー…。キャリアに悩む会社員やフリーランスという働き方に関心を持つすべての方に届けたい、インタビューです。
インタビュイー:田中さん(仮名)
大学で数学を専攻後、大手SIerやコンサルティングファーム等を経てフリーランスのPMO/コンサルタントとして独立。現在は本業の傍ら、副業で予備校講師・家庭教師として数学や物理を教える夢も叶えている。
インタビュアー:田尻(フリーランススタート編集部)
「フリーランス」という働き方のリアルを届けるべく、最前線で活躍する方々を取材。キャリアに悩む人の背中を押すコンテンツを企画・制作している。
【1】キャリアアップを渇望した20代。大手IT企業など複数社経験したが・・・
▼大学卒業後、新卒で入社したのは大手SIer。
▼「30代前半までにポジション・評価・年収を高めたい」という想いが強く、少し生き急いでいた一方で、「会社員」が合わないのではないかという違和感は常に感じていた。
▼1社でじっくり長く…という働き方ではなく、希望するキャリアのために複数回転職。コンサルティングファームや金融機関など数社を経験し、PMOやアクチュアリーとして経験を積んだ。
▼心身を崩したことで一度、働き方を改善するために派遣でPMOとした働いたこともある。
――本日はよろしくお願いいたします。まずは、田中さんがフリーランスになる前のキャリアについてお聞かせいただけますか?
はい、よろしくお願いします。新卒で入社したのは、大手SIerで、大学では数学を専攻していました。数学科からSEになるのは当時よくある進路でしたが、私にとっては職種よりも「この人のもとで働きたい」と強く思える方に出会えたことが、その企業への就職を決めた一番の理由です。
ただ、当初から「30代前半までにポジション、評価、年収を一気に高めたい」という強い想い、今思えば少し焦りのようなものがありました。いわゆるJTC(Japanese Traditional Company)と言われるような企業に入社したものの、どこか組織に馴染めない違和感も常に感じていて。「新卒の会社でじっくりキャリアを積む」というよりは、転職をキャリアアップの手段としていました。
――かなりエネルギッシュにキャリアを築いてこられたのですね。
そうですね、少し生き急いでいたかもしれません(笑)。結果的に、コンサルティングファームや金融機関など複数社を経験し、PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)や、数学の知識が活かせるアクチュアリーといった専門職として経験を積んでいきました。
とにかくポジションと年収を上げることに必死でしたが、その過程で心身のバランスを崩してしまったこともあります。その時は一度立ち止まり、働き方を見直すために派遣社員としてPMOのプロジェクトに参画しました。がむしゃらに突き進むだけではなく、自分に合った働き方を模索し始めた時期だったと思います。
田中さんのこれまでのキャリア
新卒
大学での数学の専攻を活かせる大手SIerに入社。システムエンジニア(SE)として、キャリアをスタート!
20代
コンサルティングファームや金融機関へ転職を重ね、PMOやアクチュアリーとして専門性を高める。
転機
働き方を見直すため、一時的に業務委託契約としてPMOプロジェクトに参画。
現在
予期せぬ形でフリーランスへ転身。PMO/コンサルタントとして活躍しつつ、副業で「教育に携わる」という夢も実現。
【2】「次の契約」のはずが、まさかのフリーランスへ
▼派遣のプロジェクト終了後、SNS経由での紹介案件の面談を受けた際、無事に内定をもらう。
▼しかし、雇用契約書を見ると「業務委託契約」の記載が…。企業に確認したところ、「個人事業主になっていただくという意味です」と説明を受けた。
▼フリーランスになることを想定していなかったので戸惑い、返事を保留してもらった。
▼しかし、調べてみると開業届、確定申告などの個人事業主になるための手続きが思ったよりハードルが低く、自分にもできそうだと思えた。
▼想定外のキャリアのスタートとなったが、フリーランスとして第一歩を踏み出した。
――派遣契約で働き方を見直された後、いよいよキャリアの転機が訪れるわけですね。
はい。ただ、それは全くの想定外の出来事でした。派遣で参画していたプロジェクトが完了するタイミングで、SNS経由である企業からお声がけいただき、面談を経て無事に内定をいただいたんです。
ところが、送られてきた雇用契約書を見て、驚きました。そこには「業務委託契約」と記載されていたんです。担当者に確認すると、「はい、田中さんに個人事業主になっていただく、という意味です」と。
――それは驚きますね…。フリーランスになることは想定内でしたか?
全くです。正直、かなり戸惑いました。フリーランスという働き方に対して、何か特別な希望を抱いていたわけでもありませんでしたし、不安が先に立ちました。その場での返事は保留させてもらい、一度持ち帰って考えることにしたんです。
でも、そこから自分なりに色々と調べてみました。開業届の提出や、毎年必要になる確定申告といった手続きが、想像していたよりもずっとハードルが低いことが分かったんです。「これなら自分にもできそうだ」と。
最終的には、この予期せぬ「個人事業主」という提案を受け入れることにしました。決してポジティブな理由で意気込んで、というスタートではありませんでしたが、こうして私のフリーランスとしてのキャリアがスタートしました。
【3】急遽転身したフリーランス。正直なところー…
▼こうした労働契約の問題でフリーランスになったため、意気込んで、ポジティブな理由でフリーランスになった訳ではない。
▼フリーランスには大変な面もあるけど、良い面もたくさんあると感じる。
▼フリーランスになって1番良かったと感じるのは、案件選びの裁量権。一方で、常に未来への不安を抱えている点はある。
▼案件獲得のために工夫しているのは、エージェントとの蜜な連携。プロジェクト参画後に工夫していることとしては、自分なりの貢献の仕方を考えて、存在価値を出すことを意識している。
――意図せずして始まったフリーランス生活。実際に経験してみていかがでしたか?
お話しした通り、強く希望しての独立ではなかったので、最初は不安もありました。でも、実際にやってみると良い面もたくさんあると感じています。
フリーランスになって一番良かったと感じるのは、やはり「案件選びの裁量権」ですね。会社員時代は、アサインされるプロジェクトを自分で選ぶことはほぼできませんでした。ポジションが上がっても、その点での裁量は限定的だったと感じます。その点、フリーランスであれば、自分が次にどんなスキルを身につけたいか、どんな経験を積みたいかを考え、その実現のために自ら案件を探し、獲得するために行動できます。これは非常に大きな魅力です。
――一方で、フリーランスならではの大変さや不安を感じることはありますか?
もちろんあります。それは「常に未来への不安を抱えている」という点です。プロジェクトには必ず終わりがあります。契約期間の終了が見えてくると、「次の案件は無事に見つかるだろうか」という不安がよぎります。そのため、プロジェクトの合間を縫って、次の案件獲得のためにエージェントに相談したり、面談の対策をしたりと、常に努力し続ける必要があります。この安定性のなさは、フリーランスである限り付きまとう課題だと思います。
――案件を獲得し続けるために、何か個人的に工夫されていることはありますか?
はい、特に信頼できるエージェントと連携して、2つのことを意識しています。まず大前提として、親身に相談に乗ってくれるエージェントやサービスを見極め、良い関係を築くことが何よりも重要です。懇意にしていた担当者が転職してしまうこともあるので、常に新しい繋がりを探す努力も欠かせません。
その上で、1つ目は「面談前の徹底した準備」です。面談担当者のポジションや役割、過去にどんな質問が出たか、どういうタイプの人がNGになったかといった情報を、エージェント経由で可能な限りヒアリングします。その情報をもとに、話す内容を整理し、万全の態勢で臨むようにしています。
2つ目は、「不採用になった際のフィードバック依頼」です。もし面談でNGになってしまった場合、必ずエージェントに理由を確認してもらうようにしています。自分の話し方やスキルの見せ方に何が足りなかったのかを客観的に把握し、次の面談に活かす。この地道な改善の繰り返しが、結果的に案件獲得の成功率を高めてくれると信じています。
また、プロジェクトに参画した後も、ただ言われたことをこなすだけでなく、「自分だからこそできる貢献は何か」を常に考え、自分の存在価値を示すことを意識していますね。
【4】念願だった「数学・物理の先生」にもなれた。独立したことで、自己実現につながっています。
▼自分がやりたいことをやりやすくなったのが、フリーランスになって本当に良かった点。
平日はPMO/コンサルの仕事をしつつ、土日は副業で予備校や家庭教師として数学や物理を教えるという充実した生活を送ることができている。
▼今後は、IT系フリーランスとしても、今後もPMO/コンサルとしてキャリアを積んでいく予定。
▼成長するための自分なりの工夫として、特定のスキルを磨き上げるというよりも、守備範囲を広げていくイメージでプロジェクトに臨んでいること。
――フリーランスになったことで、仕事以外の面でも変化はありましたか?
会社員時代と比べて、時間の使い方に自由度が格段に増しました。そのおかげで、学生時代からずっとやりたかったことに挑戦できるようになったんです。それこそが、フリーランスになって本当に良かったと感じる、最大のメリットかもしれません。
――と言いますと?
実は、大学・大学院で数学教育を専攻していたこともあり、「数学や物理を教える」という夢がありました。フリーランスになった今、平日の日中はPMO・コンサルタントとして働きつつ、土日は副業として予備校や家庭教師で生徒たちに数学や物理を教える、という充実した生活を送ることができています。
――すごい!まさに自己実現ですね。
はい。フリーランスとして、一人の人間が生活していけるだけの経済的な基盤を築けたからこそ、こうした挑戦ができています。そして、この活動にはもう一つ、大きな目標があるんです。
例えば、将来的に自分が得た収入の一部を、学生たちへの援助として寄付したいと考えています。そのための、ささやかな貯金づくり、という側面もありますね。
フリーランスとして得た経済的・時間的な自由を、単に自分のためだけでなく、次世代への投資や社会貢献に繋げていきたい。その思いが、今の私の大きな原動力になっています。
――今後のキャリアの展望についてもお聞かせください。
ITの仕事に関しては、今後もPMOやコンサルタントとしてキャリアを積んでいく予定です。ただ、成長に対する考え方は少し変わりました。何か一つのスキルを鋭く磨き上げるというよりは、「強みを広げていく」イメージです。参画した案件の中で「少なくとも一つ、何か新しい経験をする、強みを作る」ということを見出し、自分のスキルセットを示すレーダーチャートを少しずつ大きくしていくような、現実的な成長戦略を描いています。
――最後に、この記事を読んでいる方、特にキャリアに悩む若い世代へアドバイスをお願いします。
私自身、組織に馴染めないという違和感をキャリアの初期から感じていました。もし同じように感じている方がいるなら、フリーランスという選択肢は「アリ」だと思います。特に若いうちは、万が一合わなくても正社員に戻る道も十分にありますから。
私のスタートは意図しないものでしたが、結果として、会社員時代には得られなかった裁量権と時間、そして自己実現への道が拓けました。回り道のように見えても、その先に理想の働き方が見つかるかもしれません。この記事が、誰かの一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しいです。
まとめ(編集部・田尻より)
キャリアアップへの渇望から始まった田中さんの20代。その道は決して平坦ではなく、たどり着いたのは自ら望んだわけではない「フリーランス」という働き方でした。
しかし、田中さんはその予期せぬ転機を嘆くことなく、自己実現のチャンスとしていかれました。結果として、会社員時代には得られなかった「裁量権」と「時間」という、何物にも代えがたい自由を獲得。そして今、彼はPMO/コンサルタントとして専門性を高めながら、かつての夢であった「先生」としての顔も持つ。その先に見据えるのは、次世代への貢献という大きな目標です。
キャリアに、決められた「正解」のルートなどないのかもしれない。時にまわり道に思えたり、意図しない扉を開けてしまったりすることもあるでしょう。しかし田中さんの軌跡は、そんな予期せぬできごとからでも自分らしい生き方や真の自己実現に繋がるきっかけになり得るのだと、力強く教えてくれました。













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